研究概要 |
低次元スピン系の量子効果として興味ある現象の中にハルデン効果スピンパイエルス転移等がある.いずれも多体量子スピン効果により基底状態が一重項になり,第1励起状態との間にエネルギーギャップが生じる. ここでは,一次元S=1/2反強磁性スピンのペアリングによる,基底一重項の性質を調べるため,結晶学的にスピンが反強磁性体交代鎖を形成する,CuCl_2(γ-picoline)_2の陽子核磁気共鳴スペクトルおよび核磁気緩和現象から基底一重項の性質を調べ,一次元ハゼンベルグ反強磁性体整数スピン系で現れるハルデン効果による基底一重項との比較検討を行うことを目的とした研究を行っている. まず,CuCl_2(γ-picoline)_2におけるエネルギーギャップの磁場変化に関する情報を得るため,9テスラまでの磁場の下での,陽子の核磁気緩和時間の温度依存性を測定した.緩和が熱的に励起された磁気励起子によるとして解析した結果,高磁場側では,磁化のデータと矛盾しないエネルギーギャップが得られた.しかし,低磁場側の緩和は磁気励起子モデルでは説明がつかず,一次元鎖端のスピンが緩和に重要な役割を果たしていることを示唆している. CuCl_2(γ-picoline)_2は無限長の一次元鎖モデルで基底一重項になるが,現実には有限長であるので,鎖端には有限スピンが現れることが期待される.この鎖の端のスピンの振舞は,陽子共鳴スペクトルにも,反映されていることが確認できた.有限スピン鎖の端の効果が実験的に検証されたことが,この研究における一つの成果である.
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