研究概要 |
この2,3年の研究において,銅酸化物高温超伝導体がそのノーマル状態で示す「スピンギャップ的ふるまい」とか「スピン電荷分離の様相」といった性質は,フェルミ液体論にもとづいて「ネストしたスピンゆらぎ」の効果を取り入れることで基本的な理解が得られることを示してきた.本年度は,磁気抵抗が示すKohler則(通常のBoltzmannの輸送理論から予想される)から大きく外れた温度依存性も,上記の枠組を拡張することによって理解できることを示した. 強相関電子系において「ネストしたスピンゆらぎ」の理論を展開する基礎を与えているのは「遍歴・局在dualityモデル」である.このモデルの有効性は種々の強相関電子系において確認されてきた.本年度は,この「遍歴・局在dualityモデル」に対して微視的な基礎を与える理論を展開した.即ち,ハーバードモデルを例にとって,熱力学ポテンシャルに対する厳密な表式であるLuttinger-Wardのスケルトン展開の表式が,強相関領域においては一体のスペクトル関数が3つのピーク(2つのハバ-トバンドと1つの準粒子ピーク)に分かれることから,「遍歴・局在dualityモデル」の熱力学ポテンシャルの形に書き換えることが可能であることをスケルトン展開の4次の範囲で示した. モット転移近傍のラマン散乱や電荷感受率の異常な振舞いを理解するためには,インコヒーレントなスピンゆらぎの効果を取り込む必要があることを現象論的に議論した.
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