研究概要 |
本研究計画3年間の研究を通じて,銅酸化物高温超伝導体がそのノーマル状態で示す「スピンギャップ的ふるまい」とか「スピン電荷分離の様相」といった性質は,フェルミ液体論にもとづいて「ネストしたスピンゆらぎ」の効果を取り入れることで首尾一貫した理解が得られることを示してきた。即ちそれらの特異なふるまいの原因は,準粒子のフェルミ面が反強磁性モット転移点近傍で必然的にネストすることによってスピンゆらぎのコヒーレントな部分の重みが減ることに帰せられることを示した。それと同時に,これらの特異なふるまいの理解にはスピンゆらぎのインコヒーレントな成分の効果を取り込む必要があることを現象論的な議論を通じて指摘した。 また,モット転移の典型物質と考えられていたV_2O_3系の金属相における銅酸化物とよく似たふるまいも,「ネストしたスピンゆらぎの理論」により理解可能であることが分かった。 銅酸化物高温超伝導体は中間結合領域に属しており,モット転移の主な原因はBrinkman & Rice的な局所相関ではなくネスティングを伴う反強磁性相関にあることを,dp模型(もっともらしいパラメタの値をもつ)に対するGutzwiller流の議論により示した。 強相関電子系において「ネストしたスピンゆらぎの理論」を展開する基礎となる「遍歴・局在dualityモデル」について,微視的な基礎付けを与える理論を展開した。 重い電子系物質URu_2Si_2の異常に弱い反強磁性が,準粒子のフェルミ面のネスティングの効果とUイオンのf^2結晶場1重項の誘起モーメント機構を組み合わせることによって理解可能であることを示した。とりわけ,T_NとT=0での秩序モーメントmの磁場依存性が一見異なる磁場によってスケールされることを自然に導いた。
|