臨界温度T_<sp>以下の温度領域で生じた格子歪みによってもたらされる、スピン・パイエルス相転移に関して、動的な側面より理論的な解析を行った。従来の理論と異なるのは、格子歪みの温度依存性を考慮したことにより、T>T_<sp>になればスピン・パイエルス転移が消滅する過程が明らかにされている。 具体的には、一次元量子反強磁性(1D-AF)ならびに三角格子反強磁性体(TRI-AF)について調べた。得られた結果は、次の通りである。 (1)1D-AF XYモデルの場合:T<T_<sp>の温度領域では格子歪みにより、スピン間は交代ボンドにより結合しているモデルを考える。スピン演算子をフェルミオンに変換することにより、厳密な理論を展開した。動的相関関数を計算しダイナミクスの特徴を明確にするとともに、その機構についても論じた。 (2)1D-AF Heisenbergモデルの場合:実験結果が報告されている無機化合物CuGeO_3は、Heisenberg型のスピン系であると考えられている。この場合XYモデルとは異なり、フェルミオン間の相互作用のため、多重散乱効果等も考慮されなければならず、理論的な取り扱いは簡単ではない。ここでは、Hartree-Fock近似の範囲での解析を行った。得られた積分方程式を代数方程式に書き直すことにより、動的相関関数を算出した。波数、振動数あるいは温度により、多様に変化するその構造をエネルギー準位が2つに分岐したフェルミオンの散乱過程により解析した。得られた結果は、定性的に実験と一致する。 (3)最近のCuGeO_3に関する実験結果では、最隣接の反強磁性的な相互作用の他、次隣接間の互いに競合する結合の効果を示唆する現象が報告されている。競合系磁性体の特徴についても考察を行った。 (4)更に、この系の非線形モード解明に向けての研究も行った。 (5)TRI-AF多次元系でのスピン・パイエルス相転移の存在について、量子性と競合性を併せ持つ三角格子反強磁性体の場合について考えた。スピン演算子をボゾンに変換することにより、主として静的な量(転移温度、歪みの温度依存性)について調べている。 (6)有限磁場の下では、スピン間の相互作用は交代ボンドでは表せない非整合系であることが指摘されている。この場合のダイナミクスの研究を進めている。
|