フラーレン結晶およびその化合物では、フラーレン分子の形状から予想されるような大振幅の分子回転運動が可能であり、その電子状態に与える影響が重要であると考えられる。また、フラーレン分子の配向に関する多彩な秩序無秩序構造相転移が期待される。本研究では、核磁気共鳴法(NMR)を用いて、その電子状態と分子回転運動を調べた。研究期間内に以下のことがわかったてきた。 1.C60、C70、C76結晶中の分子回転運動と回転に関する相転移を炭素のNMR実験により明らかにした。特に、良質のC76結晶では170〜135Kで分子の回転凍結に関する相転移が存在することを見い出した。この転移温度は、C60、C70の場合より低く、分子の対称性やカイラリティの存在と関連していることが考えられた。 2.超伝導体Na2AC60は室温近傍以上で、C60は準自由回転運動を行っている金属的な柔粘性結晶であることを示した。炭素核のNMRの縦緩和時間から異常な電子状態(金属相)であることが示唆された。 3.C60を高圧で加熱して得られる、いわゆるC60ポリマーとハードカーボンのNMR実験を行い、前者ではC60同士がsp3結合を形成し、C60の回転運動が完全に凍結していることが分かった。後者では、sp3結合の証拠は得られなかったが、大振幅の回転運動は同様に存在しないことがわかった。 4.アンモニアを付加したアルカリ-C60化合物について、その電子状態とアンモニアおよびC60の分子回転運動を調べた。
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