研究概要 |
本研究の目的は、BEDT-TTFなどからなる有機伝導体における電子相関の効果を電子比熱の測定を通して議論し、特にk-(BEDT-TTF)_2X系での金属-絶縁体転移のメカニズム、その物理的な背景について議論を深める事にある。本年度は、^3He冷凍機、希釈冷凍機を用いた低温電子比熱を1mJ/molK^2のオーダーで正確に求めるために、昨年度以上の測定精度の向上を達成した。さらに磁場中での較正も行い磁場下でのγ値の変化も追った。 (BEDT-TTF)_2X系の絶縁体相については、X=Cu[N(CN)_2]Clをよび、d_8化したX=Cu[N(CN)_2]Br塩の精密な測定から、電子比熱係数γ値は±0.1mJ/molK^2の範囲内で零になり、系が電子相関効果によりハバ-ドギャップを形成し絶縁化する描像の正当性を支持する結果をえた。d_8試料における、γ値の増大は特にみられず、超伝導相と絶縁相の境界は一次転移的な振る舞いになっていると考ええられる。 一方、超伝導状態については、X=Cu[N(CN)_2]Br,Cu(NCS)_2塩を中心に研究を行い準粒子励起の温度依存性にT^2項が存在することを、試料依存性まで含めて実験を行い明らかにした。磁場依存性についても系統的に調べ、特に1T以下の弱磁場領域では磁場の印可に伴い、このT^2項が、γ項とT^3項に変化していく過程を見出した。さらに、この外部磁場によるγ項の回復はHの1/2乗で急速に増加していく事がわかった。この事は、この系の超伝導が、従来のBCS型の超伝導でなく、電子相関効果と密接に結びついたd-波超伝導である可能性を強く示唆することが明らかになった。DCNQI塩については、系統的な測定までは至らなかったが、この研究を通じて明らかになった電子相関効果と、超伝導の対称性にかんする知見は、有機伝導体の理解に極めて重要なものである。
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