カオスゆらぎがノイズと区別されるのは、何らかの意味ではカオスには秩序が備わっていると信じられるからである。大自由度カオス系で現れる集団秩序はカオス揺らぎに内在する秩序と深く関わってくる、根本的な問題である。この問題を抽象的な力学系のレヴェルから、乱流の現象論的側面のレヴェルまで議論した。1)隠れた秩序と集団運動:カオス多体系の集団運動の性質を、特に、要素系が同じでない場合に進めた。驚くべき事に要素系が同一でない方が、かえって簡単な集団運動が出る事を見出し、この機構を解析した。 2)時空カオス(乱流)における集団秩序:時空カオスにおいて集団秩序としてのパターン形成が生じる簡単なモデルを構築することに成功した。我々のモデルの空間並進対称性をもつので統計的状態の空間的不均一性は自発的対称性の破れによって生じる。また、この転移を数値的に詳しく調べることにより、伝統的な乱流粘性による解釈が、少なくとも現象論的にはある程度妥当であることがわかった。 3)カオス写像ガスにおける乱れと秩序:カオス的な内部ダイナミクスを持つ要素が他の要素の内部状態と相互作用を行ないつつ空間を運動していくモデルのシミュレーションを進めた。その結果、内部ダイナミクスと相互作用の干渉によって、空間的な秩序が形成、崩壊を繰り返す状態が広くみられることを見出した。
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