本研究は、非線型磁化率(X_2)を中心的手法とする相転移の観測を、これまで取上げた試料に加えて様々な新しい複合系に拡張・適用して、クラスター間相互作用の役割を調べることを目的に行われた。特に新しいタイプの試料として、C_<60>ベースの磁性化合物を試験的に合成し、磁気的不均一系と思われるこの物資に、既に取上げた複合系と類似の相転移の特徴が現われるかどうか探ることを試みた。 初段階に、低微弱磁場領域専用のクライオスタットを新規設計・開発した。続いて、CoCl_2-GlCの相転移点近傍の磁化の第3〜第7高調波成分の温度変化の様子を明らかにした。結果は、高温側の臨界点近傍では、振幅0.60e以上の条件で観測した全ての高調波応答が正方向の対称発散型ピークを示し、この際のX_2が、0.30e以下の振幅条件で観測されるクラスター内強磁性転移を反映したものと、本質的に異なることが証明された。また、焼結体YBa_2Cu_4O_8の測定からは、グレイン間位相秩序化の臨界点近傍のX_2は、10mOeの領域でも磁場振幅に依存してピーク位置が変化し、X_2の起源がグレイン間を貫く磁束の非可逆運動に起因することが示唆された。新規試料系であるCaO-SiO_2-0.5Fe_2O_3ガラスについては、ESR測定を併用した測定を行った結果、強磁性析出クラスターの周囲に、クラスターとは緩和特性の異なる境界領域が存在し、この部分がクラスターと相互作用して強磁性的内部場を与えていることが示唆された。一方、磁性C_<60>系として、1Brドープ試料の合成を試みたが、1Br分圧を如何に変えても、有意な自発磁化の現われる試料は得らなかった。弱い常磁性様磁化率が観測されたが、解析の結果、不純物元素に起因すると判断された。従って、従来の報告にある、30K以下でC_<60>-1Brが示した強磁性的振舞いは、誤認である可能性が認められた。
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