電子状態計算の高速化を可能にしたCar-Parrinello法を等温・等圧条件の下で行うシミュレーション法と組み合わせ、電子状態をあらわに考慮しながら、結晶構造相転移を調べることを可能にするシミュレーション法を確立するのが、この課題の目的である。 昨年度の課題では、シリコンに対し局所的な擬ポテンシャルを用い8原子の系でシミュレーションを行い方法の有効性を調べた所、ダイアモンド構造の格子定数が約10%小さい、常圧でもダイアモンド構造より安定な構造が存在する等の問題点が明らかになった。 今年度は、この原因は用いた擬ポテンシャルにあったのではないかと考え、より現実的と考えられている非局所擬ポテンシャルを用いるように変更した。 原子をダイアモンド構造の格子点に固定して計算を行うと、現実のシリコンとよく一致する格子定数が得られた。しかし、単位胞の形および原子の動きを許すと、非常に容易にダイアモンド構造はこわれ、三角格子が積層した形の構造へ変わってしまった。このため、ダイアモンド構造が不安定となる主な原因は擬ポテンシャルの形ではなく、計算の際に行った制限に由来している可能性が高いと考えられる。その制限とは、1つは、波動関数を展開する基底の数であり、もう1つは、電子状態の全エネルギーの計算をバンドのすべての点でなく、ブリルアンゾーンの中心(P点)のみで行っていることである。このうち、波動関数の基底については、約2倍に増しても、結果は改善されなかった。 更に改善するためには、粒子数の大きな系での計算を行うか、ブリルアンゾーン内の1R=0以外の点からの寄与を考慮することが必要と考えられる。
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