研究概要 |
本研究の目的は,(1)水素分子の電子状態を二重電離近傍まで精密に求めることと,(2)そのような電子状態がかかわる動的過程の解明である.本年度の成果は以前から続けていた(2)の動的過程,とくに解離性再結合の定式化,機構の解明にかかわるものであり,(1)に関してはまだ準備作業中で出版された業績はない.作業の進捗状況の報告をしたい. (1)complex Kohnの変分法を用いた電子状態を計算するプログラムを開発するために,まず展開基底を定めなくてはならない.H_2^+の電子状態は村井友和氏作成のものを援用した.連続状態については,static近似の一電子波動関数を数値的に求め用いた.電子相関を表わすために,Slater型基底の他,電子間距離を含む基底の開発を試みた.このような基底ではHylleraas型の基底が知られているが,分子における妥当性は確認されていない.そこでポテンシャルの特異性を顕に表わすことのできる二中心の超球座標を考え,2つの超球半径を固定してポテンシャルエネルギーの角変数依存性を調べた.現在その作業を継続中であるが,その結果にしたがって,基底を決定する.数値計算法として導入された'boundary derivative reduction'の方法を基底関数自体にもたせることを狙っている.プログラムの多チャンネル化にかんしては,とりあえず弾性散乱を問題とし,部分波の結合を磁気量子数分極にともなう結合をコーディングした.本年度は,とにかく基底関数を確定し,分子積分を完成させなくてはならない.最終的には,電子励起のチャネルを加える. (2)動的過程の研究としては,解離性再結合の理論計算を,実験データによる検証をしながら進めた.その結果,低エネルギーでは回転運動が決定的に重要であること,電子配置間の相互作用によって引き起こされる過程では,かなりのエネルギー範囲にわたってoff-the-energy-shellからの寄与が無視できないことがわかった.また,二電子励起状態のRydberg系列全体が関係する動的過程を扱う基本的方法を提示し,実際に計算した.
|