研究概要 |
1.研究目的 希土類原子の電子衝突イオン化の全および各価イオン生成の部分断面積を測定し、原子による電子構造の違いがイオン化の動的過程にどう反映するかを調べた。また得られた結果は、他分野の研究における基礎データとして役立つ。 2.研究内容 この研究のポイントは、(1)生成されるイオン量とその生成に与る電子量の正確な測定、及び(2)安定な金属原子線を発生できるオ-ブンの製作、にある。特に(1)の電子電流の正確な測定は、正確な断面積曲線を出す上で重要であり、その目的に要うイオン源を設計製作した。(2)に関しては電子衝撃型オ-ブンを設計製作し、これが1800℃まで加熱でき、十分な強度の金属原子線を安定に供給できることを確かめた。製作したイオン源の性質は、ほぼ正しい実験データのあるBaに対する測定を行って調べた。そのあと、Sm,EuおよびDy原子に対する部分相対断面積の測定をイオン化しきい値から900eVまで(Dyでは2000eVまで)の電子エネルギー範囲で測定した。 3.結果 測定エネルギー範囲で、Smでは1〜2価の、Euでは1〜3価の、またDyでは1〜4価イオンの生成を観測し、それぞれの相対部分断面積を決定した。得られた結果をBaの結果も含めて考察した。1価イオンに対する2〜3価イオンの生成比は、原子番号Zの増加と共に減少していくという一般的傾向を示した。これは、4f電子数のZによる増加が、1価イオン生成の断面積の増加をもたらすことに対応している。3価イオンの生成は、3s電子のイオン化しきい値から始まって4d電子のイオン化しきい値から更に増加し、オージェ過程がその主要な生成過程であることを示した。当初予定していたイオン化断面積の絶対測定が年度内に終らなかったが、膜圧センサーを使った予備実験を終え、今後1年以内に実行できる見通しである。
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