研究概要 |
本研究は地球深部で反射して到達する微弱な地震波を,多点の観測点の記録を用いて新しいスタッキング処理法を行いSN比の良い記録を作り,それをもとにその反射波の起源となった地震波速度不連続面の構造を解明しようとするものである,ここで開発した新しい処理法を用いて,マントル最下部からの反射波の研究に用いる予定であったが,研究の途中で,従来はその存在が知られていなかった下部マントルの深さ1200kmのところにある地震波速度不連続面を発見するに至った.そのため,本来の研究のうち,新しい波形重合手法の開発に重点を置き,この手法を用いて下部マントルの速度不連続の解析を優先させた.波形重合の手法は,観測計器の位相特性を補正するものであり,この下部マントルからの微弱な位相の検出によって,その有用性が検証された. 下部マントルからの反射波の解析から分かったことは,この1200kmの速度連続面は南米北部に存在すること.この地域は従来の研究から,下部マントルに沈み込むプレートが深さ約1300kmにまで達していることが分かっていること.更に,従来からの研究によるとこの地域の他にもいくつかの地域について下部マントルの深さ900〜1000kmに微小な速度不連続があり,それらはすべて沈み込むプレートが下部マントルにまで及んでいる地域であること.などが明らかになった.そのため,この1200kmからの反射波は沈み込むプレートの底で反射してくる地震波であると推定される.この反射波の存在は本来の研究対象のマントル最下部の不均質領域(D"層)成因についても大きな知見を与えるものと見られる.つまり,D"層の起源について,地球核から派生したものとする説と,沈み込んだスラブが変成したものとする説が現在併存しているが,この反射波はスラブが下部マントルまで沈み込んでいるとの直接的な証拠を与え,スラブ起源とする説に大きな支持を与える.
|