京都府北部から滋賀県北西部にかけては、最も稠密な微小地震観測網が整備されている地域である。この範囲でまず、18点の観測候補地の選定を進めた。さらに、日本列島特に近畿地方のように人工的電磁気雑音が多いと予想される地域では、ある観測点単独のデータで解析を行うのではなく、人工的雑音が少ない参照観測と点磁場データと組み合わせて解析を進めることが重要である。そのため京都府中郡峰山町にある京都大学峰山観測点において、この観測点の点の電磁気学的特徴を明らかにするために約10日間に渡り連続測定を行った。また並行して、予定観測点のうちの1地点(水呑観測点、和知町)でMT観測を行った。この点の観測から、予定していた観測地域は広範囲に人工的電場雑音が存在していること明らかになった。この様な場所で広帯域MT観測だけを実行しても当初の目的を達成できないと判断した。その解決策として、周期100秒以上の長周期帯でも安定した探査曲線を得ることができるネットワークMT観測と組み合わせて観測することを案出した。幸いなことに当初予定していた観測地域のすぐ東隣の滋賀県朽木村一帯ではネットワークMT観測を継続中であり、さらに観測地域の絶対的条件である稠密な微小観測網の観測範囲でもある。また峰山観測点の観測結果を吟味すると周期0.1〜10秒に不自然な探査曲線の変化が確認された。従ってこの地点は参照観測点として不適当であると判断された。本年度の夏に、観測に用いる時計の技術的改良がなされたので、対象観測地域から離れた所に参照観測点を設けることが可能になり、最終的に奈良県野迫川村に参照観測点を設けた。 本年度の観測に当たっては、カナダ地質調査所の出す地磁気擾乱予報を参考にして観測時期を決定し、さらに出来るだけ多くの同タイプの観測機器を動員して一気に観測を行うと言った新しい体制で観測を実行した。得られたデータに基づく解析結果から、周波数300Hzから1Hzにかけて位相が45度から60度に増加し、また見かけ比抵抗は徐々に減少すると言った整合的な探査曲線を得た。予察的な1次元モデル解析から深さ700±300mより深部に50Ωm以下の高電気伝導度層が広がっていることが明らかになった。そして、その下面は地震発生域の上面と一致しているらしいことが明らかになった。地震発生域上面付近の電気伝導度構造に関して、選考の研究及び本研究と独立した複数回の観測結果から、同様の傾向を得たことは意義深い。
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