連続成層した海洋では、陸棚端や海嶺で発生した内部波は鉛直斜め方向にビーム状にエネルギーを運ぶことによって、深層や低層に強い流れを誘発することがある。我々は1985年と1988年の駿河トラフ深層での観測から強い内部潮汐の存在を明らかにした。さらに、この内部潮汐は伊豆海嶺北部で発生したものであることを二層モデルによる数値実験で明らかにした。本研究では現場観測でのエネルギー集中機構の解明と三次元レベルモデルによる数値実験によって、内部波の斜め伝播を実証することを目的としてきた。 観測は当初、深層での係留系による流速観測を予定したが、天候不順による航海計画の変更などから、ADCPの往復連続観測により、陸棚端及び大陸斜面と海嶺周辺での内部波の鉛直斜め伝播の実体把握に変更した。1995年10月初旬に駿河湾奥部の内浦湾口の陸棚端で、また中旬には伊豆海嶺周辺で観測を実施した。陸棚端ではADCPの往復連続観測から潮汐周期成分の卓越、内部波エネルギーのビーム状構造とトラフ深層に向かう鉛直ななめ構造を確認した。伊豆海嶺上では水温計とADCPを係留しながら、曳航式ADCPによる横断観測を実施した。係留系の記録は解析中であるが、曳航式ADCPからは内部潮汐による流速は斜め伝播する様子が見える。 数値実験は駿河湾口からさらに伊豆海嶺北部域をモデル化し、海嶺の浅瀬で内部波を発生させたところ非常に強い内部潮汐が駿河湾内に内部ケルビン波の性質を持って伝播した。効果的な伝播によるエネルギーの分散を阻止し、強い潮流が存在することが確認された。二層モデル結果を支持するとともに、さらに二層モデルでは明らかに出来なかった深層での流速などの定量的な議論が可能になった。
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