研究概要 |
本研究は,九州中部にある活火山,九重硫黄山を研究対象とし,火山体の内部における,深部からの火山性流体と上からの天水との混合過程とそれらの流動系を明らかにすることを目的とし,さらに,火山体から放出される流体(気体及び液体)の総量を見積もろうとする。九重硫黄山は,同位体比の高いマグマ水を噴出しているという特徴を有し,火山性流体の放出過程の研究にはすぐれたフィールドである。本年度は,以下のような成果が得られた。 1.九重硫黄山の噴気地から流出する温泉水に着目し,その同位体及び化学組成から,火山体内部における天水の循環過程と深部からの火山性流体(マグマ水)の放出過程について検討した。その結果,天水は,火山体内で下方に浸透中,温度を上昇させ,蒸発によって同位体濃縮を起こし,そして,深部で高温に達した天水が上昇して地表付近で沸騰を起こし,さらに濃縮の進むことが推定された。 2.これによって,天水は,臨界状態(374℃)まで達している部分のあることが明らかとなり,火山体の深部(2km以上の深さ)まで液体として循環していることが知られた。 3.噴気の同位体組成が一連の関係を有していることから,臨界点よりも高温化した天水(蒸気)が,高温の単相(気体)領域内で,深部からのマグマ水と混合することが推定された。こうして,火山性流体と天水との混合がどういう過程によるものであるのか手掛かりが得られた。 4.1995年11月11日にこの九重硫黄山で水蒸気爆発を起こし,その前後の噴気や温泉水を採取することができた。それらは,現在,安定同位体とトリチウムを測定中である。また,山体からの温泉水の湧出点に自動採水装置(ウォーターサンプラー)及びデータロガ(温度)を設置し,観測中である。来年度は,噴火前にどのような変化があったのか,また,その前後で水循環の状態が変わったのか,同位体水文学の立場から明らかにしてゆきたいと考える。
|