研究概要 |
九州中部の九重硫黄山に従来から活発な噴気活動があり、マグマ性蒸気が放出されている。本研究では、噴気及び温泉水を通して放出される火山性流体の放出量の見積り、噴気と温泉水の水素・酸素安定同位体比とトリチウム濃度から火山体内部における水循環と火山性流体の流出過程、さらに、熱水の形成過程を明らかにすることを目的としている。研究成果の概要は以下の通りである。 1.温泉水には、天水に比べて同位体比の著しく高いものがあり、その流出量を温泉水の流量と同位体比の関係から見積もると1日あたり約1,100トンである。また、降水の塩化イオン濃度とその分布及び降水量から塩化水素の放出量は1日あたり6.0トン、マグマ性蒸気の量は840トン、全水蒸気量は1,500トンと見積もられた。 2.温泉水の同位体比が高い原因をマグマ蒸気の混入に求める研究者は多い。しかし、その考えで噴気と温泉水のすべての同位体比を矛盾なく説明することは難しい。天水が、浸透途中に蒸発しながら臨界点付近まで高温化し、それが上昇して地表近くで沸騰を起こせば、実測された温泉水の高い同位体比まで濃縮されるうる。この考えに立脚すれば、熱水の形成には必ずしもマグマ蒸気の混入を必要としない。また、天水の一部は臨界点以上に高温化してマグマ蒸気と混合できる。火山体内部における天水の循環系とマグマ性流体の流出系の相互作用が統一的に理解されるきっかけが得られた。 3.噴気のトリチウム濃度は浅層の循環水と同様の値であり、表層の循環水(滞留時間5〜6年)が超臨界温度まで高温化しマグマ蒸気と混合する過程が速いことを示す。温泉水のトリチウム濃度はそれよりも低く、流出までに100年以上の時間を要している可能性を示す。山体内では、天水が超臨界蒸気になってマグマ蒸気と混合し地上に戻る速い循環系がメインシステムであり、温泉湧出系はそれから分岐したサブシステムと推定される。
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