研究概要 |
本研究では,中小規模(水平スケース10^1〜10^3km程度,時間スケール10^1〜10^3分程度)の大気優乱のうち,最も大きな階層である中間規模温帯低気圧(梅雨・秋霖季の亜熱帯前線帯に卓越)や熱帯低気圧の力学的構造について,過去に蓄積されたMu・境界層・気象レーダー観測(特に1994年9月に成功した台風「中心」の観測)結果を総合的に解析するとともに,観測を継続的に実施することによって解明することを目的とする.本年度は以下のような研究を行った: 1.台風9426号観測データの解析 1994年9月に観測した台風9426号中心のデータを総合的に解析する. ・MUレーダー水平風速を,中心からの水平距離の関数としての接線・動径風速に換算し,特に様々な中心通過経路および時刻について計算を繰り返して,15分程度の間隔で前後2回ある地上気圧低極の間の時刻に中心がレーダーのほぼ真上を通過したとの結論を得た.さらに角運動量,渦度,ヘリシティ(速度と渦度の内積)など準保存量の解析も行なった. ・気象官署のレ-ウィンゾンデ等の観測データをも入手して解析し,MU観測所データとの比較から,最盛期の熱帯低気圧の特徴であるwarm core構造を持つことを確認するとともに,中心部が竜巻に見られるような螺旋構造を持ち,そのため局所的に高気圧性回転しているように観測されることがわかった. 2.梅雨・秋霖季中間規模温帯低気圧の観測の実施各種レーダー・地上設備を用いて集中観測する. ・MUレーダーによる梅雨季観測は1995年6および7月に各100時間程度実施した.6月上旬の観測では,MU建設当初の約10年前に観測されたようなcold vortexの通過に遭遇し,今回は中心よりかなり南側の詳細な構造を得ることに成功した.地上気象観測設備のうち特に降雨強度等の解析能力を増強した(設備備品費を使用). 秋霖季観測は9月頃にやはり約100時間実施したが,1995年には顕著な台風が接近せず,特に新しい成果は今のところ得られていない.但しこの種の観測の継続的実施は,長期の気候変動との関連を探る上で重要である. 3.解析結果は,内外の学会で口頭発表されたが,特に1995年11〜12月に行われた世界気象機構(WMO)の国際台風シンポジウムにおいて,本研究代表者はkeynote講演に招待され大きな反響を得た.過去の梅雨観測の解析結果は1996年初頭に計3件の国際学術誌論文として刊行され,また台風9426号の成果はWMO Bulletinに掲載され,さらに改訂して論文として学術誌に投稿される予定である.
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