研究概要 |
本研究の目的は,中小規模(水平スケール10^1〜10^3km程度,時間スケール10^1〜10^3分程度)の大気擾乱のうち,最も大きな階層である中間規模温帯低気圧(梅雨・秋霖季の亜熱帯前線帯に卓越)や熱帯低気圧の力学的構造について,過去に蓄積されたMU・境界層・気象レーダー観測結果を総合的に解析するとともに,観測を継続的に実施することによって解明することであった.2年間における成果の概要は以下の通りである: 1.梅雨・秋霖季中間規模温帯低気圧の研究 1986年以来の梅雨季(6〜7月)・秋霖季(9〜10月)の対流圏〜下部成層圏領域におけるMUレーダー(VHF帯)による標準観測データ(風速3成分,成層度,乱流風速分散)を,雨滴エコーなどを入念に除去してデータベースとして整備した.特に1991年6月17日〜7月8日に行った梅雨季3週間連続観測については,同時に行ったラジオゾンデ・気象レーダー(X,C,Ku帯)・気象衛星・気象庁客観解析結果などとともに整理し,中間規模低気圧構造,地上低気圧中心に相対的な鉛直流変動(対流雲群)の水平分布(階層構造),個々の対流雲の構造と時間変化などのほか,下部対流圏の低気圧通過に伴う対流圏界面ジェット気流や下部成層圏慣性重力波,乱流の分布特性と強度(鉛直渦拡散係数)などの時間変化も得た.また1992年6〜7月に行なった境界層レーダー(UHF帯)・MUレーダー同時観測からは,中間規模低気圧の鉛直位相構造が対流圏下部(大気境界層)で逆転する例,中〜上部対流圏‘generating cell'の構造と降水粒子降下などを検出した.1995年6月上旬に実施した新たな観測では,約10年前に観測されたようなcold vortexの通過に遭遇し,今回は中心よりかなり南側の詳細な構造を得ることに成功した. 3.台風およびその温帯低気圧化の研究 秋霖季の観測結果のうち,強い台風の中心付近を観測した1991年9月19〜20日(台風9019号),1994年9月29〜30日(台風9426号)の2つのケースについて,MUレーダー水平風速を気象庁資料と組み合わせることにより,台風中心からの水平距離の関数としての接線・動径風速に換算し,全体的には典型的な熱帯低気圧の軸対称構造を確認したが,非対称構造や時間変化など温帯低気圧化も示唆された.特に台風9428号については,様々な中心通過経路および時刻について計算を繰り返して,15分程度の間隔で前後2回ある地上気圧低極の間の時刻に中心がレーダーのほぼ真上を通過したとの結論を得た.また角運動量,渦度,ヘリシティ(速度と渦度の内積)など準保存量の解析も行なった.さらに地上・気象レーダー・レ-ウィンゾンデ・衛星,関西電力堺火力発電所境界層レーダーなどの観測データも解析し,MUデータとの比較から,最盛期の熱帯低気圧の特徴であるwarm core構造を持つことを確認するとともに,中心部が竜巻に見られるような螺旋構造を持ち,そのため局所的に高気圧性回転しているように観測されることがわかった.1995〜96年には顕著な台風がMU観測所に接近することはなかったが,1996年7月17〜18日には台風9606号の中心付近を部分的に観測した通信総合研究所山川観測所(鹿児島県)境界線レーダーのデータを解析した.また過去にいくつか観測された台風崩れの梅雨・秋霖季中間規模低気圧についても,新たに解析を試みた. 以上の研究を通じて,台風の中心付近や,梅雨前線帯の雲の階層構造に伴う3次元風速変動が初めて実測されたと言える.さらにVHF/UHF帯レーダーの中間規模低気圧・台風研究への有用性と具体的観測方法が確立され,メソ気象学の分野に新しい側面を切り開いたことも特筆すべきである.
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