ここ数十年の間に、対流のラグランジュ運動の研究は、流体力学特に気象学や海洋学において基本的に重要であることが認識されてきた。しかし、現在まで実験室でそれを研究しようとする試みは少ない。大気力学に関して、大気大循環を実験室で再現する回転円筒水槽実験において定常傾圧波の流体粒子のラグランジュ運動の実験的観測を行った。暗室で螢光物質の微粒子に紫外線を当て、我々が独自に開発した回転二重円盤実験台の観測用円盤を1個の微粒子を追って回転させる事により微粒子を含む水平・垂直断面をビデオカメラで記録する方法で3次元的追跡を可能にした。実験方法としては、2次元回転流体内におけるラグランジュ運動の観測がSolomon et alによってなされたが、3次元ラグランジュ運動の観測を行っているのはこの研究が世界的に初めてである。この研究で科学研究費補助金を受けた1年目(平成7年度)には、水中に長時間浮遊する粒子の製作方法を確立し、すでに延べ10時間以上の浮遊粒子の追跡に成功した。実験結果の一部はすでに解析も終わり、その結果は物理学会と気象学会で発表され、又論文として投稿中である。これまでの実験結果は、菅田・余田による数値計算結果に近いが、信頼できる結果を出すにはまだ観測時間が不足している状態である。特に一回の実験で10時間以上の連続追跡が必要であることが分かった。新しい発見としては、波数の異なる定常傾圧波の観測からラグランジュ運動の特徴が波数に強く依存していることが分かったことである。このことは、波数によって水平方向の熱輸送のメカニズムが異なることを示しており、気象学の上で極めて重要な意味がある。 気象研・菅田氏、京都大学地球物理・余田氏及び東大海洋研・木村氏との議論と地球物理図書及び東大海洋研図書における資料収集により気象・海洋学におけるカオス的解析さらに実験データからリアプノフ数・フラクタル次元の計算法を調べた。平成8年度に行う予定の実験データの解析においてこの成果を生かしていく予定である。
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