山体での雨水浸透の仕組みを明らかにする目的で、和歌山県日高郡由良町にある山体トンネルで、湧水の流量、伝導度、水質及びトンネル坑内での炭酸ガス濃度(赤外線散乱方式センサー)を測定している。その結果、伝導度と坑内中のCO_2濃度との間には、よい相関が認められた。これは、本湧水の伝導度の変化には、HCO_3^-の濃度変化に大きく依存していることがわかっているので、岩盤の亀裂中のCO_2濃度が増加/減少すると、浸透水への/から溶解/逃散がおこり、浸透水中のHCOH_3^-濃度を増加/減少させるので、伝導度も増加/減少したものと考えられる。 1995年5月11日〜12日の降雨事象(181.0mm)による湧水量とCO_2濃度の変化では、降雨によるCO_2の応答変化は、湧水量に比して遅く、その量がピーク値を経た後の低減段階の減少割合が急変している付近でCO_2のピーク値が現れていた。 湧水量が増加した段階での湧水は、少数の比較的大きな亀裂部分を流下し、移動速度の速い浸透成分(fissure flow)と、小さな亀裂が多数存在すると考えられる部分を流下する速度の遅い浸透成分(matrix flow)で形成されるので、上記の湧水量の減少割合が急変化する部分は、降雨によりmatrix flowの流出流量が増加をはじめる時点に対応すると推測される。 また、CO_2濃度のピーク値の出現状況は、降雨終了後、比較的地表付近の全面に保水された水は、matrix flowの浸透堝でいわゆる水分の再分配を起こし、その移動は近似的にshock wave的になされる。地表面直下の高濃度のCO_2は、そこの水分状態により、大気中への放出に比し、浸潤面の移動による下方への移動の方が容易になされていると考えられる。したがって、浸潤面のトンネル上面への到達時点はmatrix flowによる湧水量の増加開始時点に一致するので、その時点で最も濃度の高いCO_2がトンネル内へ放出されていると考えられる。
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