研究概要 |
本年度は、主に既存試料の処理(薄片作成およびデータの整理)と新規の野外調査を行った。新規調査は秋吉帯阿哲石灰岩、飛騨外緑帯一ノ谷層、南部北上山地鬼丸層で実施し、ルートマップ作成とともに多数の石灰岩標本を採集した。採集された標本のうち、一部はすでに処理(薄片作成)にとりかかっている。また、現在多くの既存試料の処理も同時に系統的に進めている。すでにサンプル処理が終了している秋吉石灰岩や日南石灰岩等の幾つかの重要なセクションでは現在までに豊富なArchaediscacea上科有孔虫類の産出を確認しており、系統分類および生層序学的な検討に着手している段階である。このうち、秋吉石灰岩の下部石炭系セクションでは、Archaediscacea上科有孔虫類は主に上部Visean相当層(上野,1989のMediocris breviscula帯)および下部Bashkirian相当層(上野,1989の中部Millerella yowarensis帯)の2層準において産出が顕著であり、下位の層準ではArchaediscus,Paraarchaediscus,Planospirodescus属等の“Visean"型Archaediscacea上科有孔虫類が多産するのに対し、上位の層準では大型のNeoarchaediscusやAsteroarchaediscus属の産出が顕著であることが判明した。また、日南石灰岩の鋼管鉱業採石場跡地の残壁に露出する、Mid-Carboniferous境界を挟むセクションにおいては、境界付近で多くの“Visean"型Archaediscacea上科有孔虫類が絶滅することが判明した。このセクションは、現在までのところ日本国内において確認されたMid-Carboniferous境界を挾む唯一の確実な連続セクションであり、本セクションでのMid-Carboniferous境界におけるArchaediscacea上科有孔虫類の入れ替わりの解明は、石炭系層序研究の重要テーマの一つであるMid-Carboniferous境界問題を考える上で国際的にも非常に重要な情報になると思われる。
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