生痕化石の化石化過程を解明する目的で、現地において化石の産状と形態観察を行い、より詳細な検討を行うために化石試料を採取した。対象とした地層は、浅海と深海で堆積した地層に分けて検討した。今年度の場合、沖縄県与那国島の八重山層群と千葉県房総半島の下総層群、そして北海道三笠市上部蝦夷層群にて浅海相に見られる生痕化石の観察と検討を行った。一方、北海道厚岸町根室層群、千葉県房総半島上総層群・三浦層群・千倉層群・保田層群、高知県室戸層群にて深海相の生痕化石の観察と検討を行った。特に今年度は、浅海環境における生痕化石の産状および保存状態と地層の形成過程の観点に重点を当てて検討を行った。検討の結果、浅海堆積物中における生痕化石の種レベルでの多様度は、通常はエネルギーレベルが低く安定した環境でありながら、ストーム堆積物も供給され堆積する様な環境で最も高いことが判明した。特に注目されることとして、通常は決して保存されないとされてきた海底面上の極めて微細な生痕が、想像以上に完全な状態で岩漠層上面に保存されていることを見いだした。その反面、生物にとって最も安定した環境である沖合いの深い環境では、むしろ多様度は低く特定の生痕しか保存されていないことも判明した。また、当然のことではあるが、常にエネルギーレベルが高く不安定な海底環境が継続するような場所の地層でも多様度は極めて低いことも判明した。以上の事実は、安定した環境が連続して続いても、また、不安定な環境が連続して続いても、生痕は保存されにくいことが判った。すなわち、生痕化石が地層中に保存される重要な条件は、連続的安定環境ではなく、むしろ急速な理積を伴う断続的な安定環境であること言えそうである。
|