研究概要 |
異歯亜綱二枚貝Carditidae, Crassatellidae, Astartidae, Trapezidaの〓歯には以下の4型があることが分かった:(1)前側歯、主歯、後側歯全てが正常、(2)前側歯、主歯正常、後側歯逆転、(3)前側歯、主歯逆転、後側歯正常、(4)前側歯、主歯、後側歯全て逆転。 逆転の頻度は、250個体以上を検討したCarditidaeで0.3〜1.1%、Crassatellidae 0.3〜0.4%、Astartidae 0.8〜2.0%程度である。Trapezidaeについては、検討した18個体中1個体で逆転が見つかったが、標本数が少ないため頻度を出すには更に標本数を増やす必要がある。 Carditidae, Crassatellidae, Astartidae, Trapezidae, Cardiidae, Veneridaeで3,700個体以上を検討した結果、前側歯と主歯は常に伴って変化していること、後側歯の状態とは独立であることがわかった。このことは、前側歯と主歯の状態を決める遺伝子はただ1個であるか、あるいは、2個の遺伝子が同一の染色体上の近接した位置にあること、後側歯の状態を決める遺伝子は、前側歯、主歯の遺伝子とは異なる染色体上にあることを暗示している。 二枚貝〓歯の逆転と腹足類の逆旋性は、見かけ上類似した現象であるが、二枚貝の逆転が一般には部分逆転であるのに対して、腹足類では全逆転である。全逆転は、発生の初期、螺旋卵割の方向の逆転によって起こり、部分逆転は更に、発生が進み、器官の形態形成の過程で起こると考えられる。二枚貝に部分逆転、全逆転両方が見られ、腹足類では全逆転しか見られない理由は、前者が基本的には左右対称の体制を持ち、後者が非対称な体制であることによると考えられる。即ち、全逆転、部分逆転はどちらの分類群でも起こるが、対称な体制を持つ二枚貝では部分逆転個体の適応値が正常個体と大差がないのに対して、非対称な腹足類では、殻と軟体部のうち一方だけが逆転した個体の適応値がきわめて低くなることによると考えられる。
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