研究概要 |
1.異歯亜綱二枚貝では比較的原始的だと考えられているChamidae,Carditidae,Crassatellidae,Astartidae,Trapezidaeで鋏歯の逆転が観察され、特化の進んだCardiidae,Tellinidae,Veneridaeでは逆転が発見されない。 2.逆転の頻度はCarditidae 0.3-1.1%,Crassatellidae 0.3-0.4%,Astartidae 0.8-2.0%程度である。 3.鋏歯の多型には、(1)主歯・前後側歯全て正常,(2)前側歯・主歯正常、後側歯逆転,(3)前側歯・主歯逆転、後側歯正常,(4)主歯・前後側歯全て逆転の4パターンがある。 4.特定の分類群に限って逆転が見られること、逆転に明瞭な規則性があることは、この現象が遺伝的に規制されていることを示唆している。 5.Chamidaeでは右殻固着種群であるPseudochamaと左殻固着種群のChamaの鋏歯が見かけ上鏡対称であることから、ChamaからPseudochama(或いはPseudochamaからCbama)が逆転により発生したと言われてきたが、鋏歯の個体発生の検討の結果、少なくともChama japonicaとPseudochama retroversa,P.gryphina,Arcinella arcinellaの鋏歯の関係は相同ではなく、相似であることが分かった。 6.Chamidaeでは種内で逆転個体が見られる種がある。Chama lazarusなど系統発生の比較的新しい時期に逆転を起した可能性がある種があり、更に発生学的、分子生物学的検討を行う必要がある。 7.鋏歯の多型は遺伝学的形質である可能性が高く、化石資料に基づく進化研究のよい素材であるが、逆転の頻度が1%未満と低く、統計学的検討のためには膨大な標本が必要である。
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