本研究は花崗岩体が金属鉱化作用を伴うかどうかの要因を探ることを目的としている。このため、第三紀の花崗岩の中から、空間的に明らかに鉱床を伴う花崗岩(鉱化花崗岩)と周囲に明瞭な鉱化作用のない花崗岩(不毛花崗岩)を選び、珪長質火成活動のマグマ期〜熱水期の情報を検出して、鉱化作用に必要な条件の抽出を試みた。 鉱化岩体として、山形県の最上地方に位置する台山岩体、黒森岩体、日正岩体の3花崗岩体を、また、不毛花崗岩体として、山陰地方の雲城花崗岩体について、綿密な野外調査のほか、岩石試料の鏡下観察、モード分析、およびXRFによる全岩化学組成の定量、造岩鉱物のEPMA分析の結果、次のような結果が得られた。すなわち、黒森岩体は比較的高温で貫入し急速に固結した。これは磁鉄鉱‐チタン鉄鉱の粒状共生、斜長石の組成幅が狭い等から考えられる。そして同時かやや遅れて台山岩体が貫入し、熱水変質を黒森岩体に与えながらゆっくり固結した。そのため磁鉄鉱中のラメラ形成、長石類の幅広い組成、Rb・Kの富化、ミルメカイトの発達ということが起きた。熱水変質は台山岩体北側で強く発生し、有色鉱物の緑泥石化やSrの溶脱を伴ながら、鉱脈型鉱床を形成した。また、日正岩体は台山岩体よりフェルシックな組成で貫入し、固結がゆっくりと進んだ。その後、長い時間(温度範囲)をかけて鉱脈型鉱床が形成された。一方、雲城岩体は、比較的等粒状で組成変化の少ない花崗岩体で、結晶分化作用の範囲が狭いことが判明した。さらに、斜長石周囲のアルバイトリムの発達が少なく、比較的酸化的な条件下で急冷固結したと考えられる。 このように、従来の岩石学的手法ではマグマの固結までしか取り扱わないが、本研究のように鉱物組織や微量成分の細かい検討により、花崗岩活動のサブソリダス〜熱水期までの情報を得ることができた。この手法を広く他の花崗岩体に適用することにより、さらに一般解答を得ることができると期待される。
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