研究概要 |
西日本には九州を除き,活地熱地帯は知られていない. しかし,地質時代に地熱地帯であった可能性の高い場所があり,本年度は主としてその調査を行った. その結果は以下のとおりである. 1.山陰地方の古第三紀カルデラ:東北日本の新第三紀カルデラには現在も活地熱地帯となっている所が多く,これとの比較は最も期待された. しかし,調査結果では確かな地熱地帯であった証拠は見い出せなかった. その理由の一つは,カルデラの上部が削剥されているため,熱水流動の証拠を示す変質帯を確認することができないことによる. しかし,緑泥石や絹雲母はカルデラ下部および周辺部に広く認められており,濁沸石もしばしば検出されている. したがって,これらのカルデラでも熱水系が形成されていた可能性は高い. 2.愛知県設楽カルデラ:設楽の新第三系下部の堆積岩についてはUtada(1970)がゼオライトによる分帯を行い,続成作用によるものとしている. しかし,その後,高田(1987a,b)がカルデラ構造を明かにしたため,再調査を行った. その結果,上部の流紋岩類中に顕著な熱水変質が認められた. この熱水変質は北北東-南南西のトレンドをもつ脈状のものが多く,岩脈の方向とほぼ一致している. しかし,変質の時期は数回あるらしく,方向の異なるものもみられる. 変質鉱物は絹雲母を主とし,一部は採掘も行われている. この変質域はカルデラ外の基盤中にも及んでおり,変質の時期とともに興味深い. 中央構造線沿いには設楽カルデラの他にも石槌山カルデラがあり,その構造と熱水系の形成メカニズムは今後更に研究する必要がある.
|