研究概要 |
平成7年度では、CaWO_4-MeWO_4-(Ca,Mn)Cl_2-H_2O系のイオン交換平衡に及ぼすNaClの影響を調べることにより、MeCl_3^-_<aq>の生成定数を求めた。対象とした金属種(Me)は、Fe、Mn、NiおよびCoであった。平成8年度では、同様の実験をZnおよびCdに対して行った。しかしながら、平成7年度に使用した実験系は、これらの金属元素に対して有効でないことがわかった。すなわち、CaWO_4とMeWO_4の2相と共存する塩化物水溶液のCa/(Ca+Me)モル比が小さく、精度の良い実験を行うことができないからである。そこで、どのような系が適しているのかを探ってみた。その結果、CaTiO_3-MeTiO_3系がZnとCdに対して適切であることがわかった。そこで、この系を用いて、NaClの影響に関する実験を行った。実験条件は、Znに対しては1kbでは500、600および700℃、0.5kbでは600℃とした。また、Cdに対しては1kb、500および600℃とした。実験にはテストチューブ型反応容器を用いた。 実験の結果、ZnおよびCdを用いた両方の系において、いずれの実験条件下でもNaCl濃度の上昇に伴い、CaTiO_3とMeTiO_3の2相と共存する塩化物水溶液のCa/(Ca+Me)モル比が減少する傾向が得られた。このことは、ZnもCdも実験条件下ではFe、Mn、Ni、Coと同様にトリクロロ錯体を生成しやすいことを示している。実験結果を熱力学的に解析して求められたZnのトリクロロ錯体の生成定数の対数値は、1kbでは500、600、700℃において1.1、2.1、2.7であり、0.5kb、600℃では2.6であった。また、Cdに対しては1kb、500および600℃において、それぞれ1.3と2.3の値が得られた。これらの実験結果から遷移金属のトリクロロ錯体は、高温・低圧ほど生成され易いことがわかった。このことは、マグマから熱水が分離される場合、低圧、すなわち、地表近くで分離が行われたほうが遷移金属が熱水中に配分されやすく、鉱床が生成される可能性が高いことを示す。
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