超臨界熱水溶液中における金属の溶存形態を調べるため、2固相共存下における鉱物-塩化物水溶液間のイオン交換平衡に及ぼすNaClの影響を実験的に調べた。本実験では、CaWO_4-MeWO_4系を用いてMg^<2+>、Sr^<2+>、Fe^<2+>、Mn^<2+>、Co^<2+>、Ni^<2+>の溶存状態に関する実験を行い、また、CaTiO_3-MeTiO_3系を用いてZn^<2+>の溶存状態に関する実験を行った。実験条件は主として600℃、1kbとした。その結果、Mg^<2+>およびSr^<2+>に対する実験では、2固相と共存する2N塩化物水溶液のCa/(Ca+Me)比は、NaCl濃度の増加にも関わらず一定であり、このことはMg^<2+>およびSr^<2+>は超臨界熱水中において中性溶存種として存在し、高次のクロロ錯体を形成しないことを示している。それに対し、Fe^<2+>、Mn^<2+>、Co^<2+>、Ni^<2+>、Zn^<2+>を用いた実験では、2固相と共存する塩化物水溶液のCa/(Ca+Me)比はNaCl濃度の増加に伴い急激に減少した。このことは、上記遷移金属イオンは、超臨界熱水条件下において高次クロロ錯体として存在することを示している。遷移金属イオンがトリクロロ錯体として存在していると仮定して、熱力学的解析により錯体の生成定数を求めた。その結果、トリクロロ錯体の生成定数は、Mn^<2+>>Co^<2+>>Fe^<2+>>Ni^<2+>の順であり、配位子場理論よりこれら遷移金属イオンは4面体配位をし、かつ低スピン状態をとっていることがわかった。Zn^<2+>はこれらの傾向に従わないことから、他のより低い配位を呈していることが推定される。 また、Zn^<2+>に関しては、500〜700℃、1kbおよび600℃、0.5kbの条件下で実験を行った。その結果、トリクロロ錯体の生成定数は温度の増加に伴い増加し、圧力の増加に伴い低下することがわかった。このことは、マグマから熱水が放出される場合、高温・低圧条件下において遷移金属が熱水中に濃集しやすいことを示す。
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