日本海に面した海域では、冬季になると非海塩性硫酸イオンの降下量が増加し、硫黄の同位体比が高くなる。中国ではエネルギー源として石炭を大量に使用しているが、中国産の石炭は日本産のものに比べて硫黄含有量が高く硫黄同位体比が高い。以上から、冬季には大陸から日本へ北西季節風によって酸性化物質が運ばれてきていると推測される。これらの酸性化物質は、大気境界層の上端付近、すなわち高度約1500m付近を長距離輸送されてくる。山形蔵王の高度1500m以上では樹氷が形成される。着氷とは、シベリアからの北西季節風によってもたらされる過冷却液体がアオモリトドマツ等に衝突する事によって生じるが、これによって低層の大気の情報を知ることが出来る。一方、積雪は、高層大気中にある氷晶核に水分が付着することによって生じることから高層の大気の情報を知ることが出来る。 蔵王周辺の化学的環境を知るため1993年と1994年に積雪と着氷を採用する経常観測と、積雪を高さごとに採取する断面観測を行った。断面観測については両年のデータには大きな相違は見られなかった。断面観測データと積雪の経常観測データとの比較では、経常観測データの方がC1/Na比が高く、クローリンロスで生じた塩化水素ガスの影響を受けていると考えられる。また、この塩化水素ガスの影響は、積雪だけではなく、着氷も受けており、その濃度は着氷の方が高い。また、断面観測において、硫酸イオン等の濃度のピークが経常観測のデータとは相関を示さず、またそれらのピークが下部に位置していることから、積雪中の硫酸イオンが移動をしているものと考えられる。経常観測の着氷と積雪では、着氷データの方が電気伝導度や硫酸イオンの濃度が圧倒的に高濃度であった。これは、過冷却液体が移動中に硫酸イオンをより多く取り込んだためと考えられる。また、低気圧の接近していた1994年12月24日〜12月26日、また1月16日〜1月17日のサンプルは、どの項目でも他の日に比べて高濃度であった。これは低気圧によって北西季節風が強まり、季節風によって運ばれてきた成分がより多く取り込まれたものと考える。
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