東北地方の樹氷(降雪・着氷)の化学組成・イオウ同位体組成からみた環境汚染物質の動態

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07640650
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 山形大学
• 研究代表者: 柳澤 文孝 山形大学, 理学部, 助教授 (00239807)
• キーワード: 蔵王 / 着氷 / 着雪 / 大気汚染物質 / 樹氷 / 越境汚染物質

研究概要

冬期になると日本海に面した海域では非海塩性硫酸イオンの降下量が増加して湿性降下物が酸性化し、また、非海塩性硫酸イオンのイオウ同位体比が上昇する。中国では日本産のものに比べてイオウ含有量が高く、イオウ同位体比が高い石炭を使用している。冬期には北西の季節風が卓越することから、大陸から日本へ北西季節風によって大気汚染物質が日本に飛来し、湿性降下物を酸性化していると推測されている。また、酸性化物質は高度約1500m付近の風形によって長距離輸送されてくるとされている。山形蔵王の高度1500m以上では着氷と着雪が繰り返されることによって樹氷が形成される。従って、着氷によって低層大気の化学的情報を知ることができる。一方、積雪は高層大気中にある氷晶核に水分が付着することによって生じることから高層の大気の化学的情報を知ることが出来る。
蔵王周辺の大気の化学的環境を解明するため蔵王山地蔵岳山頂付近で着氷と着雪を採取して溶存成分と同位体の分析を行った結果、以下の諸点が明かとなった。
(1)電気伝導度の増加にもとなって全ての溶存成分の濃度が増加する。
(2)電気伝導度は積雪と比べ常に着氷の方が高い値を示している。着氷は1500m付近の北西季節風によって積雪は数千m上空の雪雲の中で形成されることから、着氷は日本海の海塩飛沫により影響されやすく積雪は影響されにくかったのであろう。
(3)着氷のpHは積雪のそれより常に低くなっている。pHは非海塩性硫酸イオンと硝酸イオンと良い相関関係を認めることができる。また、着氷の非海塩性硫酸イオンと硝酸イオンの比は1よりも大きく、積雪と一致している。日本海に面した地域には大規模な工場や火山は存在しないこのことから日本国内の大気汚染源が影響を与えた可能性は低い。このことは、積雪や着氷に含まれている硫酸イオンや硝酸イオンはアジアにおける人為的活動由来のイオウ酸化物や窒素酸化物を起源としていることを意味している。
(4)カルシウムイオンもアジア大陸土壌起源と考えられる。

研究成果

• [文献書誌] 矢野勝俊・柳澤文孝・佐藤篤司: "蔵王の樹氷(1)生成機構" 寒地技術論文集. 12・1. 11-17 (1996)
• [文献書誌] 柳沢文孝・上田晃: "湿性降下物に含まれる硫酸イオンのイオウ同位体比" 寒地技術論文集. 12・1. 42-49 (1996)
• [文献書誌] 柳澤文孝・吉田知也・矢野勝俊: "蔵王の樹氷(2)化学組成" 寒地技術論文集. 12・1. 50-57 (1996)
• [文献書誌] Yanagisawa,F.,Ueda,A.and Shida,J.: "Seasonal variation of sulfur isotope ratios of non-sea salt sulfate in wet deposits in northern part of Japan." Bull.Yamagata Univ.(Engineering). (inpress). (1996)
• [文献書誌] 加藤賢・柳澤文孝: "冬期降水の化学組成と気象条件の関係(1)" 東北地域災害科学研究. 32. 25-34 (1996)
• [文献書誌] 加藤賢・柳澤文孝: "冬期降水の化学組成と気象条件の関係(2)" 東北地域災害科学研究. 32. 35-44 (1996)
• [文献書誌] 佐藤澄・柳澤文孝・矢野勝俊: "樹氷の化学組成" 雪工学会論文集. 13. 113-118 (1996)
• [文献書誌] 矢野勝俊・柳澤文孝・田中広樹・佐藤真理子・佐藤軌文: "蔵王・八甲田の樹氷観測" 雪工学会論文集. 13. 123-128 (1996)
• [文献書誌] 大日向裕・柳澤文孝: "湿性・乾性降下物に含まれる硫酸イオンのイオウ同位体比" 新しい海洋化学の構築-酒井均教授退官記念号 月間地球、号外. 16. 182-186 (1996)
• [文献書誌] 阿部修・小杉健二・柳澤文孝・石橋宜衡: "東北地方中部の国道47号余目-鳴子間の積雪分布調査(その2)" 雪氷学会東北支部報 東北の雪と生活. 11. 37-40 (1996)
• [文献書誌] 矢野勝俊・柳澤文孝・恩田裕生・佐藤軌文・三瓶融・千歳雄弘・田中広樹・佐藤真理子・佐藤澄: "蔵王の観測(平成7年度)" 雪氷学会東北支部報 東北の雪と生活. 11. 55-56 (1996)
• [文献書誌] 柳澤文孝・佐藤澄・矢野勝俊: "蔵王の樹氷の化学組成" 雪氷学会東北支部報 東北の雪と生活. 11. 61-64 (1996)
• [文献書誌] Yanagisawa,F.and Sakai,H.: "Surface Structure of Rhyolite Glass Reacted with Seawater Under Hydrothermal Condition" Tohoku Journal of Natural Disaster Science. 33(in press). (1997)
• [文献書誌] 柳澤文孝・酒井均: "地下水と流紋岩質ガラスの反応" 東北地域災害科学研究. 33(印刷中). (1997)
• [文献書誌] 柳澤文孝・酒井均: "地下水と玄武岩質ガラスの反応" 東北地域災害科学研究. 33(印刷中). (1997)
• [文献書誌] 柳澤文孝・酒井均: "海水と流紋岩質ガラスの反応" 東北地域災害科学研究. 33(印刷中). (1997)
• [文献書誌] 柳澤文孝・酒井均: "海水と流紋岩質ガラスの反応" 東北地域災害科学研究. 33(印刷中). (1997)
• [文献書誌] 矢野勝俊・佐藤篤司・柳澤文孝・小林俊一: "蔵王の樹氷(1)熱的考察" 東北地域災害科学研究. 33(印刷中). (1997)
• [文献書誌] 矢野勝俊・佐藤真理子・柳澤文孝: "蔵王の樹氷(2)気象観測" 東北地域災害科学研究. 33(印刷中). (1997)
• [文献書誌] 矢野勝俊・田中広樹・佐藤軌文・柳澤文孝: "蔵王の樹氷(3)生長過程" 東北地域災害科学研究. 33(印刷中). (1997)
• [文献書誌] 佐藤澄・柳澤文孝・矢野勝俊: "蔵王の樹氷(4)化学組成" 東北地域災害科学研究. 33(印刷中). (1997)
• [文献書誌] Yanagisawa,F.and Ueda,A.: "Sulfur isotope ratios of sulfate in wet deposits in Japan" Proc.3rd International Conference on Snow Engineering. (in press). (1997)
• [文献書誌] Yanagisawa,F.and Yano,K.: "Chemical composition of snow and rime at Mt.Zao.Yamagata Prefecture,Japan" Proc.3rd International Conference on Snow Engineering. (in press). (1997)
• [文献書誌] Yano,K.and Yanagisawa,F.: "Chemistry of rime and snow at Mt.Zao,Yamagata Prefecture,Japan" Proc.5th Int.Symp.on Cold Region Development. (in press). (1997)
• [文献書誌] Yanagisawa,F.,Obinata,Y.Sasaki,M.and Ueda,A.: "Sulfate ion in atmospheric deposition in Japan. (1)Sulfur isotope ratio of sulfate in wet deposition in Japan" Proc.Int.Cong.Acid Snow and Rain. (in press). (1997)
• [文献書誌] Yanagisawa,F.,Obinata,Y.Ito,H.Ueda,A.and Yabuki,S.: "Sulfate ion in atmospheric deposition in Japan. (2)Seasonal variation of sulfur isotope ratios of aerosol in Yamagata," Proc.Int.Cong.Acid Snow and Rain. (in press). (1997)
• [文献書誌] Yanagisawa,F.and Yano,K.: "Sulfate ion in atmospheric deposition in Japan. (3)Chemical characteristics of rime and snow at My Zao,Japan" Proc.Int.Cong.Acid Snow and Rain. (in press). (1997)