研究概要 |
本研究では、白金族元素およびレニウム(いずれも鉄隕石1グラム中に百万分の数g程度含まれている)を分析対象元素として取り上げ、その存在度分別の様子から金属質隕石の形成過程・化学的進化過程を明らかにすることを目標とした。分析法としては、レーザー試料導入システム(Laser Ablation System)を組み合わせた超微量元素分析装置(ICP質量分析計、東京工業大学現有装置)を用いた。本研究では、分析の空間分解能を高めるためにレーザービームを12〜15ミクロンにまで絞り込んだ紫外レーザーを用いた。レーザーを絞り込んでいるため、固体試料から採取される試料量が少なくなってしまったが、(従来の20分の1以下)、この問題に対しては、分析装置の高感度化で対処した。装置の高感度化は、プラズマガスに微少量の窒素を混入させること、そしてイオン引きだし部の真空度を向上させることにより実現でき、従来の分析装置のおよそ20倍の元素検出感度が得られた。(Hirata and Nesbitt,1995)。 本研究で開発した分析手法により、いくつかの鉄隕石のカマサイト相(α)とテ-ナイト相(γ)の間の白金族およびレニウムの分配の様子を調べたところ、白金族元素の分配は、″イオン半径″により決定されている可能性が指摘された(Hirata and Nesbitt,1997)。これは、白金族元素が原子半径あるいは融点に基づいて分配されている、とする従来の考えと異なる新しい知見である。さらに、本研究では、Canyon Diablo鉄隕石に含まれているインクルージョンの中に、過去に溶融した可能性のある金属相が見つかり、その中の6種の白金族元素およびレニウムをレーザーICP質量分析法により分析したところ、白金族元素の存在度は、やはりイオン半径に応じて分別されていることも分かった。本研究で得られた白金族元素の分配データは、白金族元素およびレニウムの元素分配機構に対して基礎的な知見を提供することとなり、今後、これらの元素の存在度から金属相の分化過程について全く新しい地球科学が展開できる可能性がでてきた。
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