研究概要 |
今年度は2年次にわたる研究の第一年次であって,予察的な実験と装置の製作準備を行なった. 続成作用の温度条件下で形成される粘土鉱物の酸素の安定同位体比を測定するために,南海トラフから深海掘削をして得られた試料を用いるが,同位体分析のための前処理を行ない,粉末エックス線回折法と電子顕微鏡による観察によって鉱物学的検討を行なった.その結果,泥質堆積物と火山灰堆積物で自生粘土鉱物組合せが異なることが明らかになった.未公表ではあるが,これまでに報告のないカリウムに富んだフッ石を発見しており,現在これの鉱物的な追加検討を行なっている.また,堆積物コアの処理の結果,同位体分別係数を求めるのに適した粘土鉱物を含む十分な量の試料を得ることができた.この試料を用いて,予察的に水素の同位体分別係数を求める実験を行なった結果,堆積深度の増加にともなって(すなわち温度の増加)にともなって,粘土鉱物-間隙水間での分別係数が小さくなるのが認められている.さらに,酸素同位体比分析のための試料処理方法を確立した.その方法を用いて,これまでに報告のなかった摂氏200度を越える温度でのスメクタイト-水間の同位体分別係数を決定しており,今年度の日本地球化学会年会で報告した. さらに,次年度に行なう予定である粘土鉱物-水間の同位体交換実験のための水熱合成装置の設計を行なった.水熱合成装置本体はチタンを用いて大阪市立大学工作技術センターにおいて自作している.また,加熱用の電気炉はシリコニット高熱株式会社において本体にあわせて設計したものを製作している.実験を効率よく行なうために,装置は2式とした.現在,実験に用いるための個体試料の選択を行なっている.よい実験結果を得るために,純粋な鉱物からなる試料を得る必要があるので,合成鉱物と天然に得られる試料の両方からの鉱物分離と鉱物化学的検討を行なっている.
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