地殻表層部の温度履歴を推定することは、生物の生存領域に重なる場での地質現象を明らかにするために重要であるが、これまで有効な地質温度計が得られていなかった。本研究では2年にわたり、自生粘土鉱物の酸素同位体を温度履歴の推定に用いることを目的として計画した。統一した見解の得られていない続成過程での自生鉱物形成メカニズムを検討した後に、粘土鉱物を分離して酸素同位体比の測定を行い、地質温度計として有効であるかどうかを検討した。さらに、室内で、水と粘土鉱物の酸素同位体交換実験を行うことにより、天然と実験室内で得られた同位体分別係数の妥当性を確認することも目的であった。簡単に結果をまとめる。 1 南海トラフから得られた堆積物コア中の自生粘土鉱物の詳しい観察と単一結晶の化学分析を行い、自生粘土鉱物組み合わせが、堆積物の砕屑性粒子の組成によって異なり、粘土鉱物組み合わせの出現は地質温度計として精密ではないことが明らかになった。また、続成過程においても、地熱系同様に、自生粘土鉱物の形成過程は溶解沈澱によるものか卓越していることが明らかになり、酸素同位体比を温度計として用いることの妥当性を与えた。 2 地熱井から得られたスケール中のスメクタイトの分析により、摂氏200度を超える温度でのスメクタイト-水間の同位体分別係数を決定した。また、1で用いた自生粘土鉱物の酸素同位体比を測定し、採取深度(すなわち温度)に依存して重酸素が減少する傾向があることを確認した。 3 イライト-水間の同位体分別係数を決定するために静水圧下で行う水熱合成実験のための耐圧容器と電気炉を設計、製作した。また、実験に用いるイライトの選択を行った。この実験は現在も進行中である。
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