光吸収に際しておよそ25eV以上のエネルギーが賦与されることにより生じる高エネルギー超励起状態である分子多電子励起状態は、類似した多電子的イオン状態である電離サテライト状態とともに、電子相関を伴う高励起状態の化学の新側面として重要である。本研究では、シンクロトロン放射光を用い、かつ最終崩壊後の断片イオンと中性断片からの発光との同時計測を行うことにより、このような分子高エネルギー励起状態の生成・崩壊過程についてのプロセス的に識別した観測手法を開拓することを目的とする。 平成7年度は上記の目的に基づき実験装置の整備につとめ、発光観測系については現有のものをそのまま用い、同時計測の相手となる断片イオン種についてはこれを質量分析によって選別するための簡易型の飛行時間型質量分析器を製作し発光観測用の真空装置内に組み込み、計測装置をたち上げた。また交付申請書記載の通りの質量分析の高分解能化のため電磁型ノズルを購入した。 以上の装置の整備と並行してすでに予備的な実験を窒素分子について開始しており、当初の研究計画・方法に基づく新しい分光研究が十分実現可能な課題でありすでに部分的には達成されていることを証明する新しい実験データの取得に成功している。すなわち窒素分子では解離前駆体である高励起イオンが、これまでほとんど知見が得られていない。内側価電子放出に対応することが示され、その真空紫外発光と断片イオンとの同時計数信号の詳細な励起関数を測定するとともに、放射光の偏光軸に対する異方性を調べることを新たなテーマに組み込んで成功し、異なる対称性を持つ状態が生成することを明らかにした。これらは一電子的な高励起イオンと多電子的な解離状態との強い相互作用を示す結果である。 以上のように本年度の研究計画はほぼ予定通り遅滞なく行われた。
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