研究概要 |
3本架橋型錯イオンM_2Cl_9^<3->(M=Cr,Mo)はCs_3M_2Cl_9の形で結晶中にあって、イオンの構造は一つのM^<3+>イオンを6個の配位子がほぼO_h状に取り囲み、2個のM^<3+>イオンが3個の配位子を共有する形で結合する。Cr^3とMo^<3+>イオンは3個のd電子を持つ。両者はかなり異なる励起スペクトルを示す。前年度の高精度計算によって、基底状態と同じ電子配置を主成分とする一重項基底状態及び三、五、七重項状態を調べ、Cr系では13cm^<-1>以内で金属間の相互作用は小さい。Moは金属間相互作用は強く、これらの状態が8000cm^<-1>の間に分布した。特に三重項への励起エネルギー782cm^<-1>が実験値840cm^<-1>とよく一致した。しかしより高いエネルギー順位の観測値との一致は悪かった。本年度はこの点を改善すべく下から3状態の平均のCASSCF計算を行い、それによって得たMOを用いてMRSDCIを行った。各状態について最適とは言えないが、低い励起状態も平均的な意味で適切に記述出来ると期待される。Cr系では二つのイオン間の相互作用が小さいので単核錯イオンCrCl_6^<3->のデータによって解釈されることが期待される。前述の一、三、五、七重項状態は{(t_2^3)^4A_2X(t_2^3)^4A_2}^<[S]>(S=0,1,2,3)と解釈されるが、求めた波動関数の解析により、1、5-7.7eV及び2-2.5eVに観測される広い吸収帯はどちらか一方のイオンでt_2→e遷移による励起状態で其々{(t_2^2e)^4T_2X(t_2^3)^4A_2}と{(t_2^2e)^4T_1X(t_2^3)^4A_2}と解釈され、1.35eV及び1.4eV付近に見られる励起状態は其々{(t_2^3)^2E X(t_2^3)^4A_2}と{(t_2^3)^2T_1X(t_2^3)^4A_2}のによる状態と理解された。Moでは金属間共有結合性が強く解釈はCrほど明確ではないが、低い励起状態はほぼ一方のイオン内でのt_2^3内での遷移によって記述される。Crよりも実験との一致が悪く、改善法を現在検討中である。
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