固相中で2個の3次元回転分子が、かなり強くカップルされたダイマー系における各分子の回転状態の詳しい計算が、簡略化されたモデルであるがはじめて行われた。その結果、Asmussenらによる希ガスマトリックス中のメタン分子に対する中性子非弾性散乱の実験と対応しうることがわかった。まず、回転ハミルトニアンを設定した。それは回転運動エネルギーと2種類のポテンシャルから成る。1つ目のポテンシャルは、2分子間の相互作用として用いた八重極-八重極型である。ただし、すべての成分を取り入れると複雑であり、重要と考えられる部分のみを取り扱った。2つ目のポテンシャルは、1分子型の結晶場でありその影響を調べた。 さて、結晶場のないときでの計算では、八重極による相互作用が強くなるに従って、分子の対称性に対応した形でトンネル回転準位が作られることが確かめられた。しかし、この場合、通常得られている八重極モーメントの値では、観測値と比較してやや強すぎるポテンシャルを与えることがわかった。そこで、結晶場の効果として、結晶場が八重極型の相互作用に対してお互いに打ち消し合う方向にあれば、結晶場がより現実的な場を与えているといえる。実際、そのような傾向を生み出す場合があることが結晶場の導入により見出された。ただし、ここで取り入れている結晶場は1分子に対する近似的なものであり、対称性からより正確な形で書き直す必要がある。また、2分子間の八重極型の相互作用が、平均的な場として互いに自己矛盾を起こしていないかのチェックがいる。さらに、今後の課題として、実験で観測されておりダイマーの存在を示唆する不純物濃度依存性の再現があげられる。
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