本年度においては超臨界流体中での励起分子対のダイナミクスとして、光励起によって電荷分離体を生じる電荷移動錯体と、ラジカル対を生じるジスルフィド化合物の2つの系に対して各々研究を行った。以下各々について述べる。 50℃の二酸化炭素中におけるHMBとTCNEの電荷移動錯体の励起状態からの緩和過程をピコ秒の過渡吸収装置で測定した。580nmで励起後すぐに450nm付近にTCNEのアニオンに由来する吸収があらわれ、また吸収ピーク付近(530nm)ではブリーチ信号が得られた。臨界密度付近での各々の信号の減衰定数は8psと13psであり、密度を2倍程度にするとどちらもはやくなるが、450nmのほうが密度変化が大きかった。450nmの信号の減衰は励起状態からの電荷移動の速度をあらわしていると考えられ、これをJortonerとMarcus流の分子内振動の寄与を含めた理論によって解析したところ、おおむねその密度変化を再現できることが明らかとなった。この結果は現在レターとして投稿中である。 スルフィド化合物の光解離反応にたいしては、ナノからマイクロ秒での過渡吸収測定を二酸化炭素およびトリフルオロメタン中でおこない、ラジカルの減衰が2次反応で記述されること、またその速度定数の密度変化がおおむね拡散定数の密度変化とリニアに対応していることを明らかにした。ただし、その詳細を議論するには解離の量子収率の密度依存性を評価する必要があり、現在種々の光熱分光法を応用してこの点を検討中である。これに関連して、流体中での過渡種の拡散定数を測定した。また、二酸化炭素の臨界点近傍での測定を行ない、反応速度の臨界異常はほとんど認められないことを示した。一方でピコ秒速定用のフローの高圧システムの設計、制作がおおむね完了し、今後ピコ秒領域での測定をおこなっていく予定である。
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