本研究では密度揺らぎの大きい超臨界流体中での励起分子対のダイナミクスを明らかにするために、光励起によって電荷分離体を生じる電荷移動錯体と、ラジカル対を生じるジスルフィド化合物の2つの系に対して各々研究を行った。前者の系としてヘキサメチルベンゼン(HMB)とテトラシアノエチレン(TCNE)の電荷移動錯体を用い、ピコ秒の過渡吸収法により、励起状態からの緩和過程を種々の流体中(エタン、二酸化炭素、亜酸化窒素、トリフルオロメタン)で測定した。その結果電子移動速度は溶媒の極性、あるいは密度をあげると速くなることが示された。実験的に得られた電子移動速度は、各流体中での各溶媒密度における吸収スペクトルより見積もった、反応の自由エネルギーおよび溶媒の再配向エネルギーよりその相対変化を理論的に再現できることを明らかにした。一方、電子移動速度が顕著な重水素置換効果(HMB-d_<18>)を示すことがわかったが、この説明に関しては今後の研究課題である。 ジスルフィド化合物の光解離反応にたいしては、光熱分光法の一種である過渡回折格子法を応用した手法を新規に開発し、その光解離の量子収率を高圧流体中で簡便に決定することに成功した。得られた各種流体中での量子収率の溶媒密度変化と、過渡吸収法により求めた反応速度の密度変化は、よう素の場合に用いられていたケージモデルでは説明することはできず、光励起直後の解離ポテンシャル上での再結合過程の可能性を示唆する結果をえた。また、高圧流体中でフローのシステムを用いて、ピコ秒のNd-YAGレーザーの4倍波励起によるジスルフィド化合物の光励起後の過渡吸収信号を得ることに成功した。現在種々の流体での過渡吸収信号の立ち上がりの違いについて検討をすすめている。
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