本研究の目的は、エネルギーフィルタ透過電顕法で測定される元素分布像の有効性と限界を真に把握するために、得られる像の空間分解能と強度の定量性を把握することにある。 1.元素分布像の空間分解能 本研究では、入射電子のエネルギーが1MeVの超高圧電子顕微鏡を用いた。空間分解能を実験的に評価するために、塩化鉄グラファイト層間化合物の観察を行った。塩素のL殻電子励起スペクトルの信号強度を利用し、塩素原子の分布像を撮影するのに成功した。その結果、インターカラント層1層の厚みが0.9nmの厚さで測定された。これは、構造的な厚み0.3nmの他に、測定法に起因する分解能が重畳されていることが判明した。その主な因子として、非弾性散乱過程の非局在性と対物レンズの色収差に起因する像のぼけが影響していることが明らかになった。結論として、高分解能の元素分布像を撮影するには超高圧電子顕微鏡が有効であることが示された。 2.元素分布像の定量性 構造的によく規定されているカーボンナノチューブの炭素像を撮影し、像強度の定量性について考察した。その結果、試料厚さが十分に薄いナノチューブの場合、像強度は原子数分布を極めて正確に反映していることが明らかになった。更に、超高圧電子顕微鏡で元素分布像を定量化する際には、非弾性散乱断面積の相対論補正をすることが不可欠であることも新たに判明した。また、今回の実験の解析から、ナノメータ以下の空間分解能の条件で、炭素原子の検出限界は18個以下であることが示され、本手法の検出感度の高さが実証された。
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