本研究の目的は、(1)先に見いだした有機光化学反応に対する10Tクラスの強磁場効果の機構の解明、(2)さらに強磁場による新しい化学反応制御の可能性を模索することにある。 (1)では、フェナントレン(Phen)とジメチルアニリン(DMA)をメチレン鎖で連結した連結化合物(Phen-(CH_2)_<10>-DMA)のエキサイプレックスケイ光の強磁場効果をナノ秒レーザー分光法により研究し、2T以上の磁場ではΔg機構による磁場効果が起こることが解明された。またアントラキノン(AQ)にメチレン側鎖をもつ誘導体(AQ-CO_2-(CH_2)_<n-1>-CH_3)のミセル中の光半により生成するラジカル対の強磁場降下のメチレン鎖長依存性、ミセルの種類の依存性をレーザー閃光法により検討したところ、δg機構による磁場効果が強磁場中で起こることが解明された。 (2)では、金属銅と硝酸銀水溶液などの金属と水溶液系の酸化還元反応により生成する金属樹に対する強磁場効果を検討した。銅棒(5Φ X 250mm)と硝酸銀水溶液からの銀樹の生成反応(Cu+2Ag^+→Cu^<2+>+2Ag↓)では、金属樹の生成が磁場勾配により顕著な影響を受ける。すなわち強磁場中では銀樹がほとんど生成せず磁場の弱い箇所で主に生成することが明らかになった。この新しい磁場効果は、常磁性イオンである銅のイオンが勾配磁場効果により磁場に引き寄せられるためであることが解明された。また、反磁性結晶の成長が磁場配向するという新しい現象を見いだした。以上の研究から、「強磁場反応化学」というべき新分野の開拓の端緒を得ることができた。
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