研究概要 |
本研究は、DNAの二重らせんの立体構造、核酸塩基の配向をミクロな環境で、偏光ラマンスペクトル法により明らかにする事を目標とした。 得られたラマンテンソルの値を整理し、構成成分間及び構成単位とポリマーとの間の転用性を検討した。違った分子の結晶間ではどうか、モノマーの値をそのままポリマーに使えるか、得られたテンソル値はAb-initio MO法による量子化学的計算結果によって裏付けられるかなどについて、仔細に検討した。DNAの二重らせん形成による核酸塩基のラマンテンソルの変化を、面内及び上下の塩基のコンプレックス形成という二つの面から検討した。G-C,A-T,A-Uのワトソン・クリックの二重らせん形成において、塩基環の呼吸振動モードの、円盤状のラマンテンソルが長楕円状になるかどうか? 環面内振動のラマンテンソルが、上下の環の重なりによるスタッキング効果によって、らせん軸方向の成分を増大させ、丸みを帯びるかどうかの二点に絞って、実験と理論の面から考察した。最後に、二種類の稀少アミノ酸である、トリプトファンとチロシンを取り上げ、それらの単結晶のラマンテンソルを決定し、タンパク質中におけるこれらの残基の配向を推定した。 以上の成果を、報文6報にまとめて報告し、また本年9月上旬に南アフリカで開催される第16回国際ラマンコンファレンスで報告する予定である。ラマンテンソルの転用性適用の適不適の問題は、本研究によって初めて明らかになったものであり、今後の研究の指針をあたえるものである。
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