研究概要 |
この研究は、DNAの二重らせんの立体構造、すなわち核酸の二重鎖およびそれらに蛋白質の結合した複合体における、核酸塩基や蛋白質残基の配向をミクロな環境で、偏光ラマンスペクトル法により明らかにする事を最終目標としている。そのため以下のような手順を踏んで研究を推進した。 第一に、核酸塩基および核酸モノマーモデル化合物の単結晶を作成し、それらの偏光ラマンスペクトルからラマンテンソルを決定できるかを検討した。第二に、DNAやpolyRNAなどポリマー二重らせんの配向繊維を作成し、それらの偏光ラマンスペクトルをどのように解析すべきかを検討した。第三に、ラマンテンソルの転用性を検討した。違った分子の結晶間ではどうか、モノマーの値をそのままポリマーに使えるか、得られたテンソル値はAb-initio MO法による量子化学的計算結果によって裏付けられるかなどについて、仔細に検討した。第四に、DNAの二重らせん形成による核酸塩基のラマンテンソルの変化を、二つの面から検討した。G-C,A-T,A-Uのワトソン・クリックの二重らせん形成において、塩基環の呼吸振動モードの、円盤状のラマンテンソルが長楕円状になるかどうか?環面内振動のラマンテンソルが、上下の環の重なりによるスタッキング効果によって、らせん軸方向の成分を増大させ、丸みを帯びるかどうかの二点に絞って、実験と理論の面から考察した。最後に、二種類の稀少アミノ酸である、トリプトファンとチロシンを取り上げ、それらの単結晶のラマンテンソルを決定し、タンパク質中におけるこれらの残基の配向を推定した。 以上の成果を、報文15報にまとめて報告した。ラマンテンソルの転用性の問題は、本研究によって初めて明らかになったものであり、今後の研究の指針をあたえるものである。
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