研究概要 |
発光分光法は、吸収分光法に比べて高感度な測定が可能であるが、赤外領域では波長が長いため不利で、いくつかの簡単な分子に応用されているのみである。一方高出力炭酸ガスレーザーは波長10μm帯に吸収を持つ多くの分子を励起して遠赤外レーザー発振を引き起こすことがよく知られている。しかし炭酸ガスレーザーはとびとびの周波数でしか発振しないため、あらゆる分子に適用できるわけではない。SF_6分子は10.6μm帯で強い吸収を持つので、本研究では高出力炭酸ガスレーザーでSF_6を励起し、衝突エネルギー移動により振動励起された目的の分子からの赤外発光を高分解能フーリエ変換分光によって観測した。試みたほとんどの分子からの赤外発光が強く観測されたが、そのなかでN_2O分子の発光スペクトルの解析を行い、N_2O分子のエネルギー分布について知見を得た。N_2Oの回転状態はJ=110以上も励起されていて、R-枝では折り返しが観測された。回転温度はJが70以上では熱平衡温度T_r=819(9)Kが得られた。ホットバンドのスペクトルが基音と同程度またはより強く観測されているので、振動準位(0,v_2+1,1)と(0,v_2,1)間の振動温度は負温度に近いほど高温であることを意味する。観測された振動・回転・並進運動のエネルギーの総和は、炭酸ガスレーザー光8光子が関与しているエネルギー移動過程まで観測されていることを示した。フリーラジカルや不安定分子への応用は、励起効率のよいセルを開発する必要が認められ今後の課題である。
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