研究概要 |
一酸化窒素のリュードベリ状態に、レーザー誘起自然放射増幅分光法(LIASE)を適用した。特に、波長3μm以上に存在するASEスペクトルの回転構造を完全に分離観測することにより、前期解離状態からのASE発振機構を明らかにした。 K^2Π状態:弱い前期解離性を有することが知られており、これまでいかなる周波数領域においても蛍光は観測されていない。本研究ではK^2Π(v=0)状態の単一回転準位をレーザー二重共鳴法により選択励起した際、2.9μm付近にK^2Π-E^2Σ^+遷移に対応する、また4.5μm付近にK^2Π-F^2Δ遷移に対応するASEを確認した。特徴的なのは、後者が低いJ(J=1.5,F2準位とJ=0.5,F1準位の2準位)からのみ観測できることである。 M^2Σ^+状態:M^2Σ^+(v=0)は前期解離性状態ではなく、2.6μmにあるM^2Σ^+-E^2Σ^+遷移に対する蛍光が報告されている。本研究ではこの遷移のほかに5.2μm付近にM^2Σ^+-H'^2Πに相当する強いASEを初めて見いだした。M^2Σ^+-H^2Σ^+遷移は観測されなかった。 S^2Σ^+状態:弱い前期解離性を有することが知られており、これまでいかなる周波数領域においても蛍光は観測されていない。本研究では,4.0μmにS^2Σ^+-M^2Σ^+遷移を初めて検出することに成功した。S^2Σ^+-K^2Π遷移は全く検出にかからなかった。 以上のように、これまで蛍光では発見できなかったリュードベリ状態間電子遷移をASEを信号源とすることによりきわめて高感度に検出することができた。LIASEは誘導放射を利用した新しい分光法であり、その強度は必ずしも状態間の遷移モーメントに一致しない。従って実験結果を理解するためには理論計算が必要である。
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