研究概要 |
2つのテトラチアフルバレンを4本の架橋で結んだシクロファン型化合物には直行型、平行型の2種類がある。昨年度エチレンジチオ鎖およびプロパンジチオ鎖をもつ直行型の合成に成功したので、本年度は平行型の合成、また、直行型では両間距離や分子間相互作用を制御するため、架橋部を変化させたものの合成を試みた。 1.平行型では逆合成解析に基づき、考え得る殆ど全ての合成ルート(6ルート以上)を試みたが、その合成には成功せず、ポリマーまたは(直行型が生成可能の場合には)直行型のみが生成する結果となった。平行型に環化する前駆体/中間体の立体配座/配置がエネルギー的に不利なためと考えられる。平行型は本質的に困難な合成ターゲットであると判断され、今後は立体配座/配置を制御するための,しかし最終段階では除去可能な置換基を利用して、その合成に取り組みたいと考えている。 2.架橋部を変化させた直行型の合成では、ビスクロロメチルスルフィドやビスクロロメチルエーテルを用い、プロパンジチオ鎖の場合と同様な大環状体を経るルートを追究したが、クロロメチルチオ基、クロロメトキシ基をもつ中間体の精製の困難さから、目的を達することは出来なかった。現在そのような中間体を避けるルートで合成が進んでいる。一方、TTFを出発物質として、短いステップでプロパンジセレノ鎖体の合成に成功し、現在は収率向上の努力を続けている。 3.プロパンジチオ鎖直行型の陽極酸化で得られるラジカル塩は半導体ではあるが、設計どうりのほぼ等方的な伝導性を示すほか、伝導性や磁性に興味ある圧力依存などが見いだされている。プロパンジセレノ鎖体も半導体ではあるものの、その性質は硫黄体に比べ望ましい方向に変化している。
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