研究概要 |
本研究は種々の開殻ドナー、アクセプター分子の設計・合成を行い、有機磁性金属の構築を図ることを目指している。対象とする開殻ドナー(アクセプター)分子は、導電性を担うドナー(アクセプター)部位と磁性を担う孤立スピンとを分子内に併せ持つ必要が有る。さらに一電子酸化還元状態において、非局在電子スピンと局在電子スピンとの間に、有効な正の交換相互作用が存在しなければならない。平成7年度はこのような分子の設計指針に基づき、アミン系ドナーを用いた種々の開殻ドナー分子の合成を行なった。また合成したドナー分子が実際に設計指針通りの性質を示すかどうかを電気化学的手法、ESR測定、分子軌道計算により確認した。 アミン系開殻ドナー分子を一電子酸化して生じるカチオンラジカルの電子状態は、基底三重項ビラジカルとしてよく知られているトリメチレンメタン(TMM)と非常によく類似していることが分子軌道計算により明らかとなった。またESRスペクトルから得られる零磁場分裂パラメータD,Eは多重項種の電子状態を反映する値であるが、ジメチルアミノニトロニルニトロキシドのカチオンジラジカルのD,E値がTMMと同様の値をもつことからも実験的に電子状態の類似性が確認された。この結果は本系が一電子酸化により高スピン状態となることを保証するものであり、導電性錯体となり得るドナーを本系に適用することにより有機磁性金属が実現可能であることを強く示唆するものである。
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