研究概要 |
チアザイン類(R^1R^2R^3S=N)は硫黄と窒素の三重結合を持つ非常に珍しい化合物で、このような化合物の存在は一般にあまり認識されていない。我々はこれまでジフェニル系でいくつかの基本的なチアザインを合成してきたが、本研究でさらに検討したところ、スルフォンジイミンを出発原料とし、今まで合成できなかったS,S-ジフェニル-S-(非環式アミノ)チアザインを得る新しいルートの開発に成功した。またチアントレン等のヘテロ環を持つチアザインの合成にも成功した。そこでチアザインの基本的反応性を調べる目的で、S,S,S-トリフェニルチアザインpKaを測定したところ、7.44とかなりの塩基性を示すこと及び置換基効果ρ=-1.77と負に大きな傾向が見られた。このチアザインとヨウ化メチルとの反応は典型的なS_N2機構で進み、N-メチルイミノスルフォニウム塩を与えた。その反応速度を高速液体クロマトグラフィーを用いて追いかけ、その反応機構を動力学的に検討した結果、生成系寄りの遷移状態を通って反応が進むこと、及びSN三重結合は分極し易いことが分かった。このことはモデル化合物H_3SNとCH_3Clを用いたab initio量子化学計算の結果とも一致した。非環式S-アミノチアザインを用いて熱分解反応機構(Ei)を高速液体クロマトグラフを用いて速度論的に調べた。多感基効果、溶媒効果、活性化パラメーターの検討、及び大きな同位体効果が得られたことにより、緩い五員環の遷移状態を通る協奏機構で反応が進むことが分かった。このことはモデル分子、H_2(EtNH)SN、を用いたab initio計算により遷移状態の構造が求められたことと一致する。S,S,S-トリフェニルチアザインを過酸化水素水で酸化すると、フェニル基の窒素上への転位を伴って、酸化が起こり、S,S-ジフェニル-N-フェニルスルフォキシイミンが得られることを見いだした。そこでこの反応の機構を検討した結果、置換基効果及びab initio計算より、三員環のスルフラン中間体を通る二段階機構で反応が進行する事が示唆された。
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