研究概要 |
1-フェニルエチルアミンおよびそのフェニル基の4-位に臭素またはメチル基を導入したキラルなアミン類を用い、サリチルアルデヒドまたは3,5-ジ-tert-ブチルサリチルアルデヒドとの縮合反応により、多数のキラルなシッフ塩基類を合成した。使用するアミンを変えることによって、(R)-および(S)-エナンチオマーとラセミ化合物を得ることができ、試料の混合等によってラセミ混合物を得ることができた。対照化合物として、アキラルなベンジルアミン、4-ブロモベンジルアミン、4-メチルベンジルアミンのシッフ塩基類も合成した。 これらシッフ塩基のうち、tert-ブチル置換基を持たないサリチリデンアミン類を過剰量のデオキシコール酸(DCA)存在下に結晶化させると、そのシッフ塩基類のDCA包接結晶が得られることが分かった。以上の合成イミン類およびその包接化合物の結晶粉末へ365nm光を照射し、その前後の電子スペクトルの変化と、光着色化学種の熱退色速度定数を、反射スペクトルの経時変化測定法により測定した。以上の結果、サリチデンアミン類のフォトクロミズム現象の発現には、光異性化に必要な空間的隙間がそれぞれの結晶中に確保されていることが非常に重要であることが証明された。また、キラルなシッフ塩基類の光着色化学種の熱安定性は、デオキシコール酸の結晶格子空洞のような光学活性な隣接分子環境の影響を強く受けるという、新しいクロモトロピズム特性が発見された。これは、キラルな分子の一分子運動の速度がキラルな結晶環境条件に作用されるということを実験的に示したことになる。 シッフ塩基の包接結晶を形成するDCAと類似のステロイド骨格を持つコレステロールおよびコレスタノールを、ピリジンの2,6-位に結合させて配位子とし、そのPd(II)錯体を合成したが、DCAのようにシッフ塩基を取り込む能力はないことが分かった。
|