研究概要 |
活性中間種であるフェニルカチオンの構造と安定性に関する計算化学的・実験化学的研究において,フェニルカチオンのメタ位置換基の特異な共役安定化効果に関する興味ある新知見が得られた。 1.置換ベンゼンジアゾニウムイオンの脱窒素分解反応速度に及ぼすメタ位およびパラ位の置換基効果と,ab initio分子軌道法計算により得られる置換フェニルカチオンの相対的安定化エネルギーとの間には,良好な相関関係が存在する事が分かり,これまで不明確であったベンゼンジアゾニウムイオンと中間体フェニルカチオンの安定化に及ぼす置換基効果の本質が解明された。すなわち電子供与性のバラ位置換基のresonance効果はジアゾニウムイオンの安定化に大きく作用するが,フェニルカチオンの安定化には直接影響を与えず,逆に,電子供与性のメタ位置換基のresonance効果は中間体フェニルカチオンの安定化には大きく寄与するが,ジアゾニウムイオンの安定化にはほとんど影響を与えない事が明らかとなった。この結果から,フェニルトリフラートのS_N1ソルボリシス反応で安定なフェニルカチオンを発生させるには,メタ位に電子供与性置換基を有するフェニルトリフラートを用いれば可能となることが予測される。 2.上記の計算化学的予測を実験化学的に確認するために,電子供与性が極めて大きいN-ピロリジニル基を両メタ位に有するフェニルトリフラートを合成し,そのTFEおよびHFIP中のソルボリシス反応を検討したところ,溶媒による求核置換反応生成物が選択的に得られた。本ソルボリシス反応速度に及ぼす溶媒の極性効果は,両オルト位のトリメチルシリル基によって超共役安定化されたフェニルカチオンを中間に生成するトリフラート誘導体のS_N1ソルボリシス反応における溶媒の極性効果と極めて類似した結果を与えた。この結果,両メタ位のピロリジニル基によって共役安定化されたフェニルカチオンが相当するトリフラート前駆体のS_N1ソルボリシス反応で得られることが,今回初めて明かとなった。
|