研究概要 |
ポルフィリン環の非平面化に伴いヘムの物性がどのように変化するかを明らかにするため、いくつかの非平面モデル錯体を用いて検討した。 A)軸配位子とmeso位の置換値との立体反発によりポルフィリン環を非平面化する方法: メソ位にメシチル基やジュリル基を持つテトラメシチル-およびテトラジュリル-ポルフィリン鉄錯体を合成し軸位に2-メチルイミダゾールなどの立体障害の大きな塩基を配位させた。この錯体の1電子酸化生成物の安定性は、対応するテトラフェニル体より大きかった。この理由として、ポルフィリン環の非平面化により環の酸化還元電位が低下することを挙げた。 B)ポルフィリン環のmeso位にアルキル基を導入してポルフィリン環を非平面化する方法: i)一連の高スピンおよび低スピン-メソーテトラアルキルポルフィリン鉄(III)錯体のラジカルカチオンを合成し、それらのNMRスペクトルを測定した。メソ位にイソプロピル基を有するポルフィリン環は極めて大きな非平面化を起こしていることが知られており、そのためポルフィリンのHOMO(a2u軌道)が本来直交している鉄のd(π)軌道との間で反強磁性カップリングを起こすことも予想される。実際NMRスペクトルを測定すると高スピン錯体にはこのような相互作用が存在するが、低スピン錯体では相互作用は極めて小さいことが判明した。 ii)一連のメソーテトラアルキルポルフィリン鉄(III)のビス(シアニド)およびビス(イミダゾール)錯体を合成し、それらの物性を^1HNMR,^<13>CNMR,ESRなどにより検討した。その結果、メソ位に置換基を持たない場合には電子配置は通常の(dxy)^2(dxz,dyz)^3であったが、置換基が嵩高くなるにつれ(dxz,dyz)^4(dxy)^1に変化することが判明した。これらの結果をポルフィリン環の非平面化に伴う鉄のdxy軌道の不安定化によるものと解釈した。 以上のように、非平面ポルフィリン錯体を用いた研究により、非平面化に伴うヘムの種々の物性変化を明らかにすることができた。
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